金属材料

 金属材料は、産業機械や構造物、製造業など多くの分野で使用されています。それぞれの金属は、特性や適用分野が異なり、選定においてはその特性を理解することが重要です。今回は、八田機械でもよく使用される6つの金属材料について、特性や用途を解説します。

  1. SS400
  2. S50C
  3. SKS3
  4. A5052
  5. SUS304
  6. SUS440C
  7. 物性表

1. SS400

 SS400は、一般構造用圧延鋼材として広く使用される炭素鋼です。日本工業規格(JIS)では、構造用圧延鋼材として規定されており、その名前の「SS」は「Structural Steel」を、「400」は引張強度の下限値を意味しています。SS400は、安価で加工が容易であり、溶接性や切削性が良好です。このため、建築構造物、橋梁、車両部品など、多岐にわたる用途で使用されています。

 強度はあまり高くありませんが、その低コスト性と入手のしやすさから、設計において強度要件が厳しくない場合に重宝されます。耐食性については高くないため、屋外で使用する際には防錆処理が必要です。また、熱処理による硬度の向上が難しいため、熱処理で強度を高める必要がある用途には適していません。

 用途例:建築構造物の骨組み、自動車のシャーシ部品、機械のフレームや支持部材

2. S50C

 S50Cは、中炭素鋼に分類される材料で、炭素含有量が0.50%程度です。このクラスの鋼材は、強度と加工性のバランスが良く、機械構造部品やシャフト、歯車など、負荷のかかる部品に広く使用されています。

 S50Cは焼入れや焼戻しによる熱処理が可能で、熱処理後には引張強度や硬度を大幅に向上させることができます。これにより、機械的耐久性が必要な部品に適した材料となります。しかし、耐摩耗性や耐衝撃性を要求される場面では、表面処理や焼入れなどの追加処理が推奨されます。また切削加工性が良好で、特に塑性加工後の仕上げに向いています。

 用途例:シャフトや歯車、プレス金型、油圧シリンダーのピストンやロッド

3. SKS3

 SKS3は、合金工具鋼の一種で、特に切削工具や金型など高い硬度が要求される用途で使用されます。この材料は炭素、クロム、タングステン、バナジウムを含んでおり、焼入れ処理を行うことで非常に高い硬度(HRC60以上)を得ることができます。また、耐摩耗性も優れており、切削工具やスタンピングダイなど、過酷な条件下での使用に耐えられる材料です。

 熱処理後の硬度は高いものの、靭性(じんせい)が若干低いため、衝撃の強い用途には適していません。そのため、用途に応じて、靭性を確保するための焼戻し処理や、使用状況に合わせた表面処理を施すことが一般的です。高い耐摩耗性と硬度を必要とする場面では、非常に有用な材料です。

 用途例:切削工具、プレス用金型

4. A5052

 A5052は、アルミニウム合金の一種で、5%程度のマグネシウムを含有することにより、優れた耐食性を持つのが特徴です。アルミニウム合金の中では中程度の強度を持ち、加工性や溶接性が良好です。軽量でありながら、海水や酸性環境に対する耐食性が高いため、船舶や化学プラントの設備、建築資材として広く使用されています。

 特に、加工性に優れているため、プレス加工や切削加工が容易です。また、溶接後の強度低下が少ないため、溶接構造物にも適しています。一方で、高温下での強度が低下しやすい点や、熱処理による強度向上が難しい点が弱点です。そのため、強度が求められる場合は、他の強化型アルミニウム合金を選択することが推奨されます。

 用途例:船舶の船体や甲板部品、自動車の部品、機械部品

5. SUS304

 SUS304は、オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な材料であり、18%のクロムと8%のニッケルを含むことから「18-8ステンレス」とも呼ばれます。優れた耐食性と耐熱性を備えており、広範な産業分野で使用されています。特に、食品産業、医療機器、化学プラントの装置など、腐食に対する耐性が求められる用途に適しています。

 SUS304は、非磁性であり、低温下でも衝撃に対する靭性を保持します。ただし、塩素化合物を含む環境では腐食が進行しやすいため、海水や塩害環境では他の耐食性の高い材料(例:SUS316など)を選ぶことが望ましいです。また、SUS304は硬度が高くないため、機械的耐久性を必要とする部品には使用が制限されることがあります。

 用途例:食品加工機械、化学プラントの配管やタンク、医療機器

6. SUS440C

 SUS440Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、高炭素を含有しているため、焼入れによって高い硬度と耐摩耗性を得ることができます。SUS304に比べると耐食性は劣るものの、高硬度のステンレス鋼としてナイフやベアリング、工具、計測機器などに使用されています。焼入れ後の硬度はHRC55~60程度となり、耐摩耗性が特に求められる用途に適しています。

 一方で、靭性が低く、割れやすい性質があるため、衝撃を受けやすい用途には不向きです。また、溶接性も低く、溶接が必要な構造物には適していません。耐食性については、一般的なステンレス鋼よりもやや低いため、塩水や酸性環境には使用を避けるべきです。

 用途例:ナイフやカッターブレード、ベアリングボール、計測機器の精密部品

7. 物性表

材料融点 (℃)密度 (g/cm³)ヤング率 (GPa)剛性率 (GPa)熱伝導率 (W/m·K)降伏点 (MPa)引張強さ (MPa)伸び (%)硬度 (HB)
SS400約1,425~1,5307.852008050205400~51020~30110~160
S50C約1,450~1,5107.852108047275570~70015~25160~220
SKS3約1,370~1,4507.902108020~30250~300700~8505~15230~260(焼入れ後)
A5052約605~6502.687026138130215~25012~2050~70
SUS304約1,400~1,4507.931937316215505~73540~60140~200
SUS440C約1,370~1,4807.752007724275735~8002~15255~320(焼入れ後)

 以上のように、各金属材料はそれぞれ異なる特性を持ち、それに応じた用途が存在します。SS400はコストパフォーマンスに優れた一般構造用鋼材として、S50Cは強度と加工性を兼ね備えた機械構造部品に、SKS3は高硬度を必要とする工具材料に最適です。A5052は軽量かつ耐食性の高いアルミ合金として、SUS304は耐食性と耐熱性に優れたステンレス鋼として広く使用されています。一方、SUS440Cは硬度と耐摩耗性が求められる用途に適しており、各材料の特性を理解することで、適材適所の選定が可能となります。